『-抜然人活劇-イナ 抜けなかった聖剣』
大きな広場の中心に、地面からむき出した岩肌が一つ。
その岩に一本の剣が突きたてられていた。
剣のそばに立つ黒き衣を纏う魔導師を思わせる老人が一人。
「この剣を抜くことができるのは神が選びし者のみ。
その者にはこの国の王となる資格を得るだろう」
多くの人間がその言葉を信じ、剣を抜こうと挑戦した。
しかし、剣はビクともせず、未だこの岩に突き刺さったままとなっている。
野次馬も日に日に減っていき、終には誰もいなくなる時が生まれた。
まるでその時を見計らったように一人の女性が巨大な剣を担いでやってきた。
それは世界を跨ぎ闘争の旅を続ける剣士。イナ=シルバチオ=ボルダーン。
イナ「剣を抜けば王となる、か。その責務は剣一本よりも重いはずじゃがのう」
老人「抜けるものなら抜いてみなされ。老若男女構わず挑戦する権利があるぞい」
イナ「興味はあるぞ?見ての通り力は少し自慢じゃからのう。
しかし、王になるつもりはない!」
キッパリと言い放つイナに老人はホッホッホと愉快そうに笑った。
老人「すべては神が決めることじゃ。ここにおるということは……」
イナ「理由としては充分じゃな。本当に抜けるのであれば、な?」
イナは小さく首を傾げつつ、巨大な剣を右手に担いだまま左手で岩に突き刺さった剣の柄を握る。
まず軽く力を込めて引く。
それでも抜けないので更に力を込めて引く。
わずかな揺らぎすら起こらず、剣は沈黙を貫く。
イナ「まるで魔術の類でもかかっておるかのようじゃな。
それともこれは伝説の剣を抜けなくする伝説の岩か?」
老人「ホッホッホ。降参かね?」
イナ「まさか。まだ本気を出しておらぬぞ?
ちなみにこの岩、私の剣で斬ってはならぬか?」
老人「……とんでもないことを言う女子じゃ」
老人は無茶なイナの言葉に少し余裕を失っていた。
老人「そ、そんなことができるものか!」
イナ「できるできる。私の剣は断てぬ物無しじゃからのう」
老人「いかん!それでは抜いたことにはならん!」
イナ「う~む、それはそうか……。なら、本気で行くぞ!」
イナは右手に担いでいた剣を地面に突き刺し、今度は両手で剣の柄を握った。
グッと力を込める。金属の柄を握り潰してしまうのではと錯覚するほどに。
その剣を抜くことにのみ、全身全霊をかけてイナは奮起した。
イナ「ぬぅおおおおお!!」
若い女がとんでもない声をだしている。
老人はそんな感想を抱くだけで少しも抜けるなどとは思わなかった。
――が、それもすぐに覆される。
メキッ。
何の音かはわからない。
しかしそれも連続して聞こえてくると、地面から鳴る音だと知らされる。
イナ「ふぬぅうううう!!」
老人「ま、まさか……」
イナ「わ、我に……抜けぬ物なぁあああしッ!!」
ずぶぁああああ!
イナの両腕が剣を掴んだまま空へと掲げられる。
抜けないとされていた剣が抜けてしまったのだ。
そう――突き刺さっていた岩ごと。
老人「なんじゃこりわぁあああ!?」
イナ「抜けた?いや、抜けておらぬのう」
剣の先には大きな岩が突き刺さったままだ。
よく見ると剣そのものが抜けた跡は存在していない。
単純に突き刺さった岩ごと地面から抜いてしまったのだ。
イナ「どーしようかのう、これ?」
老人「コ、コラ!!すぐに戻さぬか!!」
幸いにもイナの荒行を目撃する者は他にはいなかった。
だが想定していなかった事態に老人は動揺と困惑でどうにかなりそうだった。
イナ「まぁ、抜けたものは抜けたから満足じゃが……」
老人「抜けたうちに入るか!!」
イナ「まあまあ。こういう物はちゃんと持ち主が現れる者じゃぞ?」
老人「だから探しておるのだ!それをお前が台無しにしおって!」
イナ「何も怒鳴ることはなかろう……さっきまで余裕綽々だったキャラ崩壊して……」
老人「うるさい!ここから立ち去れ!」
イナ「あははは」
面白げに笑いながら後ずさりするイナ。
するとドンと誰かにぶつかる。
イナ「おおっとすまぬ!」
??「いえ、大丈夫です」
そこにはイナよりも小さな少年が立っていた。
まだ顔に幼さが残っているせいか、イナには男か女か見分けがついていない。
しかしその目はとても力強く、地面に突き立てられた剣を見ている。
イナ「これを抜くのか?」
??「はい。私は王となり民のためにこの国を導いていきたいのです」
イナ「ほほう。おぬし、いい目をしておるのう」
その様にイナは微笑んでみせた。
老人のような簡単に抜けるもか、という笑みではない。
この子どもの言葉に込められた想いにイナは何の疑いも無く頷いたのだ。
民を憂う純粋でまっすぐな目。そこに自分の母親を思い出していた。
細い腕の先にある小さな手。
その手が剣の柄に触れるや否や、剣はいともたやすく岩より解き放たれた。
自らが王となる証を手にし、やや緊張の面持ちでイナを見上げている。
イナ「言葉では言い尽くせぬほどのものがおぬしの肩に重く圧し掛かるであろう。
じゃが……おぬしには味方がおる。真なる味方がのう」
??「味方、ですか?」
イナ「うむ!」
イナは思い出していた。
かつて戦いの地で。ここよりも少し未来でこの子どもと共に戦場を駆けたことを。
剣を手にしてからの顔つきが違う。その顔がそれを思い出させた。
イナ「なるほどのう。私がここに着た理由がわかったぞ」
??「えっ?」
イナが自らの剣を構えると同時に、茂みの中から百人近い人間が飛び出してきた。
かつてこの剣を引き抜こうとし、王の座を欲していたものたちだ。
イナ「アーサーよ。助太刀するぞ?」
アーサー「なぜ私の名を……? あなたはいったい……!?」
イナ「我が名はイナ。イナ=シルバチオ=ボルダーン!
若き王を守護する聖なる剣じゃ!!」
ダダッと駆けるイナと、それにつられて走るアーサー。
その身のこなしと剣の馴染みにイナは頷いた。
アーサーも見ず知らずのイナに、知らず心を許していた。
イナ「まずは生き抜くことじゃ!その剣で、勝利を築くのじゃ!」
アーサー「はい! 今はあなたに……約束されし勝利を!!」
交わされた剣が煌びやかな音を奏で、小さな王の戦いが始まるのだった。
というわけでここまでです。
なんか「俺たちの戦いはここからだ!」的な終わり方が多いような?気のせいかw
だ~ってガッツリ書くにはここじゃあ狭いですからね~。
あくまでも修行のためです。多すぎず、限られた量に納めるために。
久し振りに三人称視点ですしね。
言ったもの勝ちで今回のイナ自信がアーサーの聖剣です(`・ω・´)v
悪魔城ドラキュラの影響で、「抜けなかった聖剣」という言葉と在り方が好きでしてねw
イナにそういう状況を作らせて抜けなかった聖剣を作ってしまいましたw
それも切れ味の無い重量級な鈍器だけど神聖な属性付きな武器にしかなりませんがw
この「抜けなかった聖剣」のために書いたようなもんです♪
あと、タイトルからしてアーサー王の話だとわかると思うので。
イナがアーサーと出会った、ということ以外に説明は不要ですよね~?w
アーサーが男か女かとかそういう野暮ったいことは無しです。
脳内CVはお好きにどうぞ~(`・ω・´)b”
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