ブログ小説『CROSS DRIVER→真紀~ハガネのタマシイ~③』
四階から五階へ、銃を構えて駆け上っていく。
これだから下っ端は。銃を向けるのが遅すぎるじゃないか。
せっかく数では優勢なはずなのに、一人が銃を構える頃には私が全員打ち抜いているぞ。
もちろん、殺してはいない。腕とか足とかは打ち抜かせてもらうけど。弾はちゃんと貫通させているから大丈夫だろう。私からの善意だ。
????「貴様ぁああ!!」
ドウンッ!と銃声が響く。
倒れる男。
ため息をつく私。
真紀「だから、叫ぶ前に撃てというんだ」
五階の部屋に入ると、四階と同様に吹き抜けになっていた。ここには誰もいない。
そのまま六階へ上がっていく。が、今度は誰も襲ってこなかった。
何の障害も無く、六階の扉へついてしまった。
一応、この間にボスが逃げられないように七階までの階段を覗いてみたが、誰も潜んでいなかった。
挟み撃ちにあうのも問題なので、もう一度六階まで戻る。
――怪しい。怪しすぎる。
銃に弾を込め、たばこを咥えた。
真紀「よし!」
大きな音を立てて扉を開いた。
その瞬間、一斉にこちらへ向けて発砲される。
私は壁を背にし、二発三発と狙いもせず打ち返した。
――7、8……11、12……。
それから銃声がバラついき、代えの弾を装填して再び発砲してきた。
私は咥えていたタバコを取り、なんとなく眺めた。
銃声の数をタバコを噛んで数えていた。もちろん、タバコの歯跡を数えているわけじゃない。眺めて思い返しているだけだ。
まず間違いなく、弾が満タンの状態で発砲してきたはず。
それと銃声の数。そして私の勘から、この部屋に潜んでいるのは六人だと分かる。
私は上着を高く放り投げた。
そこへ目掛けて弾を放つヤクザたち。それが人間でないと分かると、銃声が止んだ。
私はその瞬間を狙い、地面スレスレに飛び出した。
両手の拳銃で三発ずつ放ち、反対側の壁へ移動する。
誤射だと悟ると銃を上へ傾けてしまう人間が多い。特に、素人には。それを利用しただけ。
六発で六人をし止めることはできなかった。見た限り、四人がいいところだ。
私は壁を背にして残りの二人を倒した。
真紀「まったく。安くはないんだがな」
穴だらけの上着を拾ってそう言った。もっとも、自分の身を守るためならこうなることも惜しくは無いが。
いよいよ次は七階。私はここに星がいると考えている。
そういえば通報してきたあの子。途中で見かけなかったな。
――まぁ、いいか。相手が素手なら自分の身くらい守れるだろう。
もっとも、相手が素手じゃないから私に電話してきたんだけどな。
七階への階段を上ると、扉の前に二人の男が立っていた。
男A「誰だ?」
男B「……」
男Aが私に問いかけているのに対し、男Bはもう拳銃を抜いていた。
さすがにここまでくると腕の立つ人間がでてくるらしい。
しかしかわいそうに。私が相手とは運が無い。
男Bの銃をすかさず避け、その銃を撃ち飛ばした。
それを見て男Aが慌てて銃を取り出す。が、遅すぎて話にならない。
私は男Aを手刀で気絶させ、そのまま男Bのどてっぱらへ拳を振るった。
しかし、余程鍛えてあるのだろう。全然手応えが無かった。
その有様に余裕の笑みを浮かべる男B。私にしてみれば死亡フラグだ。
男B「そんなもの効くかぁ!」
私に向かって拳を振りかぶる男B。私はすかさず銃を向けた。
真紀「これなら効くだろ?」
男B「お前、鬼か!? 丸腰相手に銃を使うなんてプライドがねぇんじゃないか?」
それで挑発しているつもりか。くだらんな。
真紀「互いに仕事のはずだろう?なら、手段は選ばんのがプロだ」
私はそう言って銃をしまった。言動の差異に混乱する男B。
構わずファイティングポーズを取ってみせる。
真紀「こい!時間を無駄にするな」
男はようやく意味を理解し、笑いながら私に向けて再び拳を突き出した。
まっすぐに打ち出された拳はスピードもパワーも申し分ない。が、当たらなければ同じだ。
男のパンチをすり抜け、再びその体に向けて拳を振るった。
そんな私に、男は「フン!」と鼻で笑う。が、その顔は悲痛な顔へと変わった。
私の放った拳が、さっきと同じ場所を射抜いていた。
真紀「今度は手加減抜きだ。一発で済むなら銃も拳も変わらんだろう?」
男は泡を吹きながら白目を向いて倒れた。
銃でも拳でも一発で済むなら、その手段を選ぶ必要は無い。ということだ。
それに拳の方が金はかからないし、何より気が晴れるからな。
しかしとんでもない筋肉だな。手が少し痺れたよ。
そんなことより、さっさと扉を開くか。
真紀「……む?」
まったく動かない。見た目は同じだが、今までより厚みのある扉だった。
横にカードキー式の端末が設置されていた。下手に壊せば鍵は二度とあけられない。
真紀「チッ。まどろっこしい」
いらだちから男Bを蹴った。
他に進入する手段はいくらでもある。
私はその場を後にした。
▽
△
????「さぁ、覚悟はいいか?」
????「ムッフッフ。大人しくしなさい」
女の子「イヤー!ヤメテヤメテ!」
ヤクザと外国人の男が女の子に迫っている。他に男はいない。
脇に大きなベッドと撮影機材らしきものを見る限り、ここでいかがわしいことを目論んでいたのだろう。
ここのヤクザはこういう仕事もさせているのか。
ヤクザと外人が二人がかりで女の子に掴みかかる。しかし寸での所でそれをかわされる。
するりするりと二人の間を潜り抜けていく女の子。
よく見るとヤクザたちの顔に引っかかれた跡が見て取れる。
なんだかアホらしくなってきたな。
しかしまぁ、このままにしておくわけにもいかないか。
私は窓からこの部屋に侵入した。
ヤクザ「誰だ!?」
外人「どこから進入した!?」
真紀「間抜けどもめ。上の階からに決まってるだろう?」
八階から下の七階まで、配水管を伝って降りてきただけだ。
自分のいる階だけ厳重にすればいいというもんじゃない。
そんなことよりこの二人、ヤクザと外国人を扱う上の人間なのは間違いなさそうだけど……同じ顔してる。
真紀「お前ら兄弟か?」
外国人の格好とヒゲを変えればこのヤクザと同じ顔になりそうだ。
なるほど。兄弟でヤクザやってたわけか。片方が海外取り引き担当ってわけだ。
私はそこの女の子の方へ声を掛けた。
真紀「おい、凛(リン)。手間をかけさせるな」
女の子の名は凛。私のイトコにあたる。この子はこれでも古武術をやっている。逃げようと思えば逃げられたはずだ。
まぁおかげで私の出世の足がかりになるわけだが。
凛は笑いながら頭をかいた。
凛「お父さん。何か言ってましたぁ?」
これだ。ホントに緊張感が無い。
真紀「『知らん!』ってさ。早く帰って尻でも叩かれて来い」
凛「……やっぱり帰りたくないなぁ」
凛の父は古武術の先生をしている。私も少し、そこで習っていたことがある。
そりゃあもう、厳しい人だったよ。鉈朗叔父さんは。
ヤクザ兄「こっち無視かー!」
ヤクザ弟「兄貴、やっちまおうぜ!」
私は二人に銃を向けて睨み付けた。
真紀「パンツ一丁の男たちが、私に触れるな。その@@@@だけ蜂の巣にしてやろうか?」
ゾーッとした顔で二人は顔を見合わせると互いに頷いた。
ヤクザ兄弟『降参します……』
ホントにそんなことをするわけが無いのに、よくもまぁ信じるもんだな。
凛「あ、真紀さん。コレ、そこの金庫の鍵です。お金と麻薬が入ってますよ」
そう言って制服の下の胸の間からカードキーを取り出す凛。
なんとなく、こういうことになった理由がわかった気がする。
どこぞの階で取り引き現場を目の当たりにして、この階に逃げてきたら色仕掛けでも使ったんだろう。そしてこの親父二人に閉じ込められてしまったのだろう。ま、当人たちはまさか凛が古武術の有段者だとは思わなかったろうけど……まったく。とんだトラブルメーカーだ。
真紀「家出するなら場所を選ぶことだな」
凛「友達の友達がこの人たちに薬をやられて……」
急に悲しそうな顔をする凛。そんな顔されたら言い難いじゃないか。
真紀「しかし……友達の友達って他人じゃないか」
凛「友達が泣いてたんです。だから……」
無謀な正義感でこういうことをするのは良くないが、結果的に私がかけつけたから良しとするか。
凛の優しさまで否定する気は、無いんでね……。
真紀「お、やっときたか」
窓の外を見るとパトカーが止まっていた。
そりゃあ目星をつけていた所から銃声の通報があれば急いでくるはずだ。 ヤクザの兄弟をその辺にあったロープで縛り上げる。
真紀「おい、出る時はどうすればいい? 鍵がいるのか?」
ヤクザ兄「出る時は必要ありません!」
ヤクザ弟「ボタンを押せば開きます!」
よしよし、素直でよろしい。
真紀「さぁ、行くよ。凛?」
凛「ハイ!」
扉のボタンを押して凛の方を見た。
真紀「!」
私の視野は広い。眼球の端に銃を構えた男が映っていた。
振り返って腰の銃に手を当てるが、完全に遅かった。
ここに来る前、越野の言葉が脳裏に過ぎった。
――あのバカ。もっと的確に状況を言えよな!
死んだら呪ってやる。
そう思った時、男はぐらりと体を揺らし、その場に倒れた。
その後ろに立っていたのは、なんと越野だった。
越野「おおぅ!? やー危なかった危なかったぁ!」
胸に手を当てて大きなリアクションでそんな事を言う越野。
私はホッと胸を撫で下ろした。
そして思わず越野に駆け寄った。
真紀「越野ー!」
越野「おっ、予想外の展開――」
バキンッッ!!
越野「――でもないか。なんだよー助けてやったのに」
私は思わず越野をブン殴っていた。
真紀「お前に借りを作るくらいなら、死んだ方がマシだ!」
越野「やれやれ。ホッとした顔も可愛いかったのに……」
ブツブツと小声で呟く越野。
真紀「何か言ったか?」
越野「い~え、何もございません」
わざとらしく敬礼などしてくる越野。
――こいつ、絶対わざと私をイラつかせようとしているな?
あれから凛は親元へ帰された。少しは許してやるように言ってみたが鉈朗叔父さんは「わかっている」の一言。電話越しとはいえ、迫力がある。
越野はというと、その場にいなかった事にしてもらった。越野も面倒なのはゴメンだと快く頷いていた。おかげで私一人の大手柄になるわけだ。
太田は特になにもない。
こうして、この事件は無事に解決することができた。
……けど、越野が言うにはまだ危険なことが私に降りかかってくるらしい。
上等だ。人生なんてそんなものだろう。
それから逃げるくらいなら全部ネジ伏せてやる。
それがこの私、紀野真紀の生き方だ!
おわり。
久しぶりに真紀を動かして思うのは、やはりジョーカー的存在だなと思いました。
人間が強すぎる設定なので、あんまりピンチにならないんですよね^^;
まぁ、それでもおもしろく書けるようにするのが作家だと思うので!
あと〆方は①と同じにしてみました。覚えてる人いるかな?的な感じでやってみましたw
真紀の物語はまだまだ続くと思います。
ブログのカテゴリに別枠作ってもいいなぁ~と思いましたw
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