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武神は姫と服を選ぶ
俺たちはとある街の服屋に来ていた。
旅を続けていれば服も取り替える必要がある、というのは建て前。
久しぶりに大きな街に来たせいか、宿も探さずイトに連れられて服屋に直行だ。
イトはどうしてこう、色んな服を着たがるのだろうか。
男の俺には理解できん。
「竹蔵ぉ! この服はどうじゃ!? なかなか良かろう?」
ぴょんぴょんと跳びはねながら上機嫌で聞いてくるイト。
頭の後ろにある黄色のリボンはそのままか。
服のことはよく分からんが、イトが良いと言うのなら良いのだろう。
「なかなか良いんじゃないか?」
「ふむ。竹蔵にしてはなかなか素直な感想じゃのう?」
「素直ってなんだ? イトが『なかなか良かろう』って言ったんじゃないか。じゃあ、なかなか良いもんなんだろ、それは」
「なぁ~んじゃ! その言い様は!?」
腕を組んで頬を膨らませながら抗議するイト。
服のなんたるかを知らん俺にどんな言い様を求めてるんだ……?
「じゃあ、わしが『どうじゃ竹蔵。胸がキュンキュンして思わず抱きしめたくなるじゃろ?』と聞いたら同じように『ああ。イトの美しさに胸がキュンキュンするぞ』と言って抱きしめてくれるのかっ!?」
「でかい声で何を言ってんだおまえは。言うわけねぇだろ、そんなもん」
「ほぉ~れみよぉお!! わしがこうして服を見せておるのじゃ。感想くらい言っても良かろう?!」
「感想だぁ?」
改めてイトの格好を見る。
どう見ようとも、俺にとって服は服でしかない。
「ほれほれ~」
「あー……青いな。それから白い。あと薄い。ヒラヒラ。なんか付いてる。機嫌悪い」
「こりゃ! 誰のせいで機嫌悪いと思っておるのじゃ! もう少し形容の仕方があるじゃろう?」
このやり取りは何度目だ? わからんもんはわからんのだ。
イトだってそれは知ってるだろうに。なぜかいつも俺に聞いてくるんだ。
「俺は王族じゃねぇからわからん」
「なんじゃとぉ~? 普段はわしが王族であることなど関係ないと言って求愛するくせに!」
「誰が求愛したんだ。誰が!」
「こぉなったら! 意地でも竹蔵を見惚れさせてぎゃふんと言わせてくれるわっ!」
そう言いながら店中を駆け回るイト。
見惚れてぎゃふんなんて言うやつがいるのかよ?
「どうじゃ竹蔵! 見事な早着替えじゃろ!!」
「……そうだな」
「ふっふーん。そうであろう。マジカルプリンセスの異名は伊達ではないわ!」
「その異名、今作っただろ?」
イトの言うように着替えて俺のところにくるまでそんなに時間は経っていない。
それには俺も驚いた。異名のことは置いといてもだ。
「……おまえ。目的間違えてないか?」
「間違えておらぬわ! 見よ! そして褒めよ!」
視線をイトの服へ持っていく。
イトは青い服が好みだと言うが、今回も青系だった。
再びイトの方を見ると、ニッと笑って首を傾げてきた。
――誰かイトが何を期待しているのか教えてくれ。
とりあえず褒めて欲しいみたいだが……。
しかし、やっぱり俺から見れば服は服だ。
特に何がいいのか。どう言えばイトが喜ぶのか、皆目わからん。
「ん~……」
「こ、こりゃ! あまりジロジロ見ると恥ずかしいじゃろ!」
「なんでそうなる」
今度は恥ずかしそうにもじもじとし始めるイト。
女ってやつは何がしたいんだか理解に苦しむな。
「あー、……青いな」
「竹蔵の感想はいつもそれじゃな」
「俺も言いながらそう思った」
いつも感想を求められて、開口一番に色を言ってると今になって気が付いた。
まぁ、服の感想を聞いてくる回数が多すぎるのも問題だとは思うが。
「わしの髪を見よ! どうじゃ?」
「髪か。いつもと違うな」
「いつもと違うわし! 良かろう?」
「いつもと違うイト。良いんじゃないか?」
「むぅ~。それではさっきと変わらぬではないか。復唱しておるだけじゃ!」
一応、同意も含んでるんだがな。
イトが良いと思うのなら本当に良いはずなんだろうし。
「やはりネコミミとバニーガールくらいせねばならぬのか……」
「ネコなのかウサギなのかわからんな。まぁ、カオンなら好きそうだが」
カオンは動物が好きだから。そういう動物の名前が付くものが好きそうだ。
もっとも、イトが言うくらいだから、かなり妙な格好なんだろうな。
「竹蔵の国ならアレじゃな。巫女服! それならクるじゃろ?」
「クるって何だよ? 人を変な趣味みたいに言うな!」
「何を言うか! 巫女服と竹箒の愛称はバツグンなんじゃぞ!?」
「知るかっ!」
たかが服にどうしてそう熱くなれるのか不思議だ。
そもそも趣旨が変わってきているじゃないか。
「俺には物の良さはわからん。イトのように詳しくないからな」
「そんなことは関係ないわ! わしはおぬしに褒めてもらいたいのじゃ!」
「服を褒めたらイトを褒めたことになるのか?」
「当然じゃ! わしはおぬしが好きじゃもん!」
イトの言葉に店内が静まり返る。
「お、おい!」
「好きな者に褒められたら嬉しいに決まっておろう! 竹蔵もそうじゃろうが!!」
「わかったわかった! わかったから叫ぶな!」
他の客(主に女)がこっちをチラチラ見ながらいろんな視線を送ってくる。
微笑ましいものでも見るような、ハラハラと落ち着かないような……そんな目で、だ。
こういう注目の浴び方は苦手だ。
それでもイトは構わず俺から目を反らそうとしない。
周りが見えていないのはいつものことだが……。
「のう、竹蔵。わしはそんなに魅力は無いか……?」
肩を落としてしゅんとなるイト。
ああ、ダメだ。そんな顔されたら何も言えなくなるじゃないか。
怒ってくれる方がまだ気が楽だったが……。
「俺は言葉を持たん。剣士だからな」
「……それは関係あるのか?」
「ある。剣ならともかく、服のことはわからん」
「そうか……」
なぜかまた気を落とすイト。
コロコロと一喜一憂の激しいやつだ。
……だが、それがイトらしくていい。
俺にはそれで充分。それに尽きる。
「どんな服を着ていてもいいんだ。イトはな」
「む? それはなんとも投げやりじゃな」
「そうじゃない。どんな姿でも俺から見たらイトだってことだ。俺がおまえの服のことで文句を言ったことがあるかよ? ないだろ? だからそういうことだ」
だんだん自分で何を言っているのかわからなくなってきた。
「だからその、なんだ……そういうことだ」
「ふふっ。竹蔵らしいというか何というか、じゃのう」
やっと笑顔を見せるイトに、俺はホッと胸をなでおろした。
イトはやっぱりそっちの方がいい。
「何を着ていても変わらん。俺にとっては……」
「つまり、どんな格好をしていても関係ないというやつじゃな?」
「そうだ」
「わしが気に入った服を着ておれば竹蔵も気に入ってくれるのじゃな?」
「そうだな」
「だからどんなわしでも、おぬしは愛してくれるということじゃな?」
「そ……う!?」
頷きそうになるのを無理やり止めたせいか、頭が変なふうに揺れた。
――こいつは、どさくさに何てことを言いやがるんだ……。
顔に手を当てると自分でも熱くなっているのがわかる。
こういうのは苦手だ。いやに照れるし、そんな自分が格好悪い。
「では改めて。どうじゃ竹蔵? 似合うか?」
「あ、ああ。似合っていると思う」
「ふふっ。それは良かった。わしも気にいったぞ」
嬉しそうに俺の前でくるくると回るイト。
その光景を前に、俺は知らず見とれていた。
たったこれだけのことで、イトはこんなに嬉しそうにするんだな。
いつも面倒な服屋だが。今日は少しいいものに感じていた。
「そうじゃ竹蔵。たまにはおぬしも他の服を着てみてはどうじゃ?」
「あ~? 俺はいい。変える理由も必要もないからな」
「まぁそう言うな。今日くらいはわしに付き合っても良かろう? わしの気持ちも分かるかも知れぬぞ?」
「そういうもんか?」
確かにそれは悪いことではないな。
とてもイトのように服選びを好きになれるとは思えないが。
たまにはそれくらい付き合ってやるか。
「わかった。好きなの選んでこいよ。着てやるから」
「ふっふーん。実はもう選んであるぞ~! 白のタキシードじゃ!」
イトが持ってきたのは見たことも無い異国の白い服だった。
これを俺が着ている姿はまったく見当もつかないぞ。
「こんな堅そうな格好じゃあ剣が振れんぞ」
「大丈夫大丈夫。これは貸衣装じゃからのう」
「そんなもんでどうするんだよ?」
「ま、軽く散歩などしてじゃな。適当に……ふむ。あの教会くらいまでなら良かろう?」
「それくらいならいいけどよ。しかし散歩用の服なんてあるんだな」
「うむ。じゃあわしも着替えてくるかのう」
「なんだ。また着替えるのか?」
「当然じゃ。竹蔵はそれに着替えてくるのじゃぞ? わしは少し時間が必要じゃからのう」
「あ、ああ。わかった」
イトは足早に店の奥へ。
なぜかさっきよりも嬉しそうな感じだった。
よく分からんが。あんなに嬉しそうな顔は久しぶりに見た気がする。
たったこれだけのことで……たまにはいいもんかもな。
「ったく。しょうがねぇなぁ」
……と、ぼやきながら俺も店の奥へ。
その時。さっき見た教会の鐘の音が響き渡った。
まるで何かを祝福するかのように……。
無題
って思いましたw
なんか結婚式編に続きそうw
こう・・・
褒められないってもどかしいですねw
私もその立場になったら褒められるか分からないんですがw
難しいです。
Re:無題
出産のたびにイト姫の城に戻ってくるのは確定していますがw
いつまでもラブラブなのでw
好きな相手なら僕は褒めやすいですね~。
まぁ何がいいとか具体性を求めるとちょっと難しいですがw
喜ぶ顔が見れるならそれで充分です♪