ブログ小説『-抜然人活劇-イナ~イナと魔法使い~』
桃鬼のモモと出会い、あたしたちはそのミコトという人間に会いにきた。
この国ではオーガのことを鬼というらしい。あたしの師が鬼神という理由がわかった。
まさにに鬼のような強さだったからなぁ。
あたしはその強さを超えることができるだろうか。
……いや、うちのクソ親父が超えたというのなら、超えなくてはならない。
そうでなきゃ、いつまでたっても母上を取り返すことはできないぞ。
巫女杜「わらわが巫女杜じゃ」
着物を着た女の子が、物凄ぉ~く上から目線でこっちを見ていた。
ルイス「あの視線はたまりませんね」
イナ「いや、そりゃアンタだけだよ」
ゾクゾクッと自らを抱くルイスにあたしはツッコミを入れた。
どうもこの巫女杜という少女が腑に落ちない。どこかで聞いたことある名前だけど……。
モモ「ミコトちゃん。お友達連れてきた~」
ぷみ「ぷみは、ぷみだよ」
子どもの順応性はすごいな。ぷみはもう巫女杜に懐いていた。
巫女杜「ふんふん。おぬし、ふみの娘じゃな?よう似ておるな。あと十年したら相手を致せ」
ぷみ「?」
ルイス「私もお手伝い致しますわ」
巫女杜「ほほぅ。そちもイケるクチか」
言葉が通じていないはずなのに、順応するルイスだった。
その世界は分からん。果てしなく分からん。
イナ「――あ!思い出した!」
そうだった。巫女杜のことは母上からなんとなく聞かされたことがあった。
父上から聞いた話だったから、そんなに深くは知らないと言っていたけど、この女に間違いない。
しかし……なんでこの女は若返ってるんだ?話によるとおふみさんより年上のはずだが……。
どう見ても、あたしと同じかそれ以下に見える。
ロイみたいに親から名前を受け継いでいるのかな?
巫女杜「不老不死がわらわの望み。不死の法は完成せぬが、若返りの法で身を幼くしておるのじゃ」
――ってアレ?今あたし、口に出してたっけ?
まるで心を読まれた気分だった。
イナ「若返りの法??あんた、魔法使い?」
巫女杜「ふむ。“魔法使い”とは面白い言葉じゃな。わらわの法も神からみれば魔なのかもしれぬな」
イナ「よく分からないけど、口から炎とか出せそう」
巫女杜「どんな大道芸じゃ。普通は手からじゃろう?」
そういうものなのかな?いつぞに倒した魔王は口から吐いてたけど……。
巫女杜「それで、そちらは何用でここにきたのじゃ?」
さっき心を読まれたかと思ったけど、気のせいだったのかな?
巫女杜「なんと、道に迷ったがために訪れたのか?」
誰も何も言っていないのに、巫女杜はそう言って驚いていた。
前言撤回。やっぱりこの魔法使い、人の心を読む。
モモ「ぷみちゃんの家を教えて欲しいのぉ!」
ぷみ「ミコトちゃんは分かるの?」
巫女杜「わらわに分からぬものは少ないぞ。しかし……つまらん用で来たものじゃのう。
誰かを呪い殺したいとか。悪魔に魂を売りたいというのじゃないのか」
恐ろしいことを平気で言うな!呪いは特に嫌いだ。
ルイス「この国の通貨は持ち合わせておりませんので、体で支払うというのは如何でしょうか?」
ポチポチとボタンを外していくルイス。
いや、金の話はしてないだろう。まだ。
巫女杜「ふむ。悪くは無いな」
いいんかい!ちょっとツッコミに回るの疲れてきた。誰か代わってくれ。
ぷみやモモは意味も分からず首を傾げてるし。
巫女杜「謝礼よりもそんな理由で使われるのが気に食わぬ。余興に付き合ってもらおうか」
スッと派手やかな扇を取り出す巫女杜。
イナ「余興?」
巫女杜はあたしを見て怪しく微笑んだ。
巫女杜「なぁに。おぬしの父と同じことをしてもらうだけじゃ」
巫女杜はくるりくるりと舞うと、その体を変化させていった。
あたしたちの国の衣装に姿が変わったかと思うと、顔つきも変わった。
イナ「ええ!?」
ルイス「お兄様!?」
巫女杜だと思っていた人物が、隣国の王子ロイに変わっていた。
ロイ「よっ。会いたかったぜイナちゃん。あちゃ~ルイス。お前もいるのかぁ」
その風貌から喋り方までロイそのものだ。
どういうカラクリなんだろう?巫女杜はロイを知っているということか?
イナ「巫女杜。これはどういうことよ?」
ロイ「この国に呼ばれてきたんだな。これが」
イナ「えぇ~嘘くさいな」
ロイ「心を読むのと、物を動かすの。どっちが簡単か分かるだろ?」
そりゃあ、物を動かすほうが簡単。心を読める巫女杜にとって、ロイを連れてくるほうが簡単か。
イナ「それで、アンタはどうするつもりなのよ?」
慣れた手つきで自慢の槍を振り回すロイ。
ロイ「そりゃあね。キミと戦うつもりさ」
イナ「なんでよ?」
ロイ「そう操られてるのさ。俺を倒して解放してくれ」
都合のいいヤツだなぁ。まぁ、ロイを倒す事くらい、遠慮なくできるけどさ。
あたしは斬巌刀を手にすると、首を傾げてロイを見た。
イナ「……で、戦う事であたし利点あるわけ?」
ロイ「彼女が言っただろう?余興なんだそうだ」
イナ「ふ~ん」
見世物で剣を振るうのはあたしが気に入らない。
こんな戦い。さっさと終わらせてみせる。
イナ「いざ!」
あたしはロイに向かって一気に間合いを詰めた。
ロイの槍がそれを阻むように突き出される。
斬巌刀とロイの槍ではロイの方がわずかに間合いが広い。
そのわずかを見切っているんだ。ロイは。
ロイ「俺が勝ったらデートしてくれよ?」
イナ「断る!」
斬巌刀を振り下ろした。
しかし、刃先に槍が当てられると、ロイから外れ、斬巌刀は空を薙ぎ、地面を裂いただけだった。
こう見えて、ロイは強い。そういえばまだ一度も勝った事が無かったっけ。
それもそのはず。本気で相手をしたら殺し合いになるからだ。
ロイは女たらしのスケベ野朗だ。馬に蹴られて死んでしまうのはいいとしても、あたしは殺さない。
イナ「だから……お前は殺す! 我が剣に断てぬ物無し!」
ロイ「おや、凄い気迫――」
ロイが槍を構える前に一歩踏み込み、斬巌刀でロイをバッサリと両断した。
ルイス「お兄様!!」
飛び散る血潮と肉片に、ルイスが声を上げた。
しかし、次の瞬間。ロイは煙を上げて消えてしまった。やっぱりマヤカシだった。
イナ「ロイに少し喋らせ過ぎたみたいね。呼び出された人間が、事情に詳しいなんておかしいわ」
空から巫女杜が降ってきた。……ん?どこから降りてきた?
巫女杜「ふむ。それにしては大胆じゃな。本物だったらどうするつもりじゃ?」
そりゃ~……国際問題だわ。
イナ「ロイはね。例え敵でも女の子に槍は向けないのよ」
巫女杜「なるほどのう。人選を間違えたようじゃ。しかし、鬼神を出しても和解してたら意味がないし……。
そうじゃ。この者ならどうかな?」
ヒラヒラと扇を振るうと、ロイだった場所から男の子が出てきた。
年恰好はあたしと同じくらいか。この国の格好をして、腰には木刀が下げられている。
イナ「なっ! 父上!?」
巫女杜「わらわの知る竹蔵を投影した。どうじゃ?実の父親が相手では……む?凄い気迫じゃ」
あたしは斬巌刀を握る手に力がこもっていた。
例えコレが父上の幻でも構わない。全力でバッサリ斬れるならそれでいい!
イナ「フフ、フフフフフ……」
斬巌刀を振り上げ、父上に向けて容赦なく振り下ろした。
それを細い木刀で受け止めようとする父上。
あたしの剣を木刀で受けるだとぉ?いい度胸だ!そのままバッサリいって――――
巫女杜「なんとも複雑な家庭環境じゃのう。止めじゃ止めーぃ」
ボンッと音を立てて消える父上。
ザクンッ!と斬巌刀は地面を両断した。
イナ「チィ!」
巫女杜「興が削がれたが……試してみるか」
ポンッと再び現われたのは一糸纏わぬ女性。
見忘れるはずがない。あたしが知る母上よりも若い頃の母上だ。
イナ「は……母上!」
あたしはこの母上が裸であっても気にしなかった。
体が本当に細く、苦労をしてきた頃の母上なのだとわかる。
イナ「母上!母上!!」
さっき父上を見た反動なのか、母上の姿を見たら涙がこぼれてきた。
あたしはこの若い母上に抱きついた。例えマヤカシでも、あたしは母上が好きなんだ。
巫女杜「この一族は裸の姫に弱いのか?しかし……かわいいのぅ」
ルイス「母親に甘えているイナさん。ステキですわぁ~」
しばらくして、母上は消えた。
この地にきて、母上を見ることになるとは思わなかった。
あたしにこんな一面がるなんて、知らなかった。
あたしは涙を拭いて、巫女杜を見た。
恥ずかしい思いをしたけれど、若い母上が見れてせいか、巫女杜を憎みきれなくなっていた。
巫女杜「うむ。なかなか面白い余興であったぞ」
イナ「何から何までアンタのペースなのは気に入らなかったけど……」
巫女杜「それに。泣きじゃくるイナもかわいかったぞ?」
ルイス「ほんとうに」
なにやら思い出して余韻に浸る二人。
――いや、ホントにその世界は理解できないから。
イナ「そ、それで? 道は分かるの?」
巫女杜「よしよし。占ってしんぜよう……と、いうか」
巫女杜はピッとモモを指差した。
モモ「なぁに?」
巫女杜「モモよ。わらわの家からなら分かるであろう?」
モモ「…………あ、うん!」
うん!じゃないよまったく。この屋敷にきた時点で分かるだろう。
巫女杜「モモが案内致すであろう」
なぜか得意げに笑う巫女杜。やっぱり腹が立ってきた。
イナ「まったく。それじゃあ行くよ」
モモとぷみを先頭に、あたしは歩き出した。
が、その横にルイスがいないことに気がついた。
イナ「ルイス?」
振り返るとなぜか巫女杜の後ろに隠れていた。
巫女杜「見つかっておるぞよ?」
ルイス「あの、イナさん?私、一晩だけ巫女杜さんのご奉仕を……」
イナ「ダメ。帰り道分からないでしょーが」
グイグイッとルイスの腕を引っ張った。
ルイス「あぁ~巫女杜さ~ん!」
巫女杜「また来るがよいぞ」
こうして、この変な出会いは終わった。
気苦労が絶えない一日だったけど、若いころの母上に会えて嬉しかった。本当に……。
取ってきた山菜はおふみさんの手で調理された。
うちの国のコックも顔負けなほど、おふみさんの料理はとても美味しい。
ぷみ「おかわりぃ!」
おふみ「はいはい~」
モモ「おか!わり!」
イナ「……なんでまだモモがいるんだ?」
というわけで、後編(?)終了です。
巫女杜若返ってますが趣味とかそんなんじゃないんだからね!
ロイの出番が多くて自分でもビックリですw
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